熱海MOA美術館の一角に、左の写真の「樹下美人図」が意外と地味な感じで展示されています。
【重要文化財】とは書かれているものの、かなりの年代物でチョッとホコリっぽく (失礼 <(_ _)> ) も見えてしまうこの作品は、一目だけは見たところで、次へと移動してしまわれるお客様も多いかもしれません。
しかしこの作品が明主様の手もとに届くまでには、色々な紆余曲折があったようです。
その事については当時の新聞が報じた、ある記事によって世間の知るところとなりました。



東京日日新聞 昭和27年8月29日
保護されぬ国宝級の絵画


凡例
 ●=読めない文字
 ○=ふせ字
世界にたった四枚しかないという千五、六百年前の貴重な唐絵が国宝として文部省で買上げる直前、美術商に買い取られ秘密会であるべき文部省の文化財買取評価委員会の秘密が事前に洩らされたのではないかとの疑いが起っており、一部文化財保護委員らの腐敗ぶりも明るみに出されようとしている。しかもこの絵は危うく海外に売り飛ばされようとしたといわれ、わが国の重要文化財はすべて同じ危機にさらされている。と同委員会の内部からも粛清の声が上がっている。写真は(右)主人と侍童(じどう)、(左)美人と侍女(じじょ)

買い損った文部省
世界一の唐絵
樹下美人図

問題になった絵とは、日露戦争直後大谷光瑞氏の探検隊が中国新疆(しんきょう)省吐魯番(トルファン)付近喀喇和綽(カラホージャ)古墳から発掘した「樹下美人図」で、これはその後の調査で同古墳の東南にある三堡の破城から発掘され現在国立博物館に保存中の国宝樹下人物図と一対であることが判明、破損防止のための裏ばりに開元二年(714)と年号の入った●戸籍の古紙が廃物利用されているところから絵もこの千五、六百年前に制作された正真正銘の珍しい唐代の風俗画だと判った。二枚とも粘土板に彩色した貴族男女の「逢引き図」の壁画で、千数百年も埋没していたにもかかわらず新疆省は乾燥しきった土地だったためほとんど変色も破損もなく完全に原形を保っている。

国立国会図書館 所蔵



東京国立博物館
樹下人物図
男子の人物図の方は清朝末期の新疆省政司だった王樹●氏から大阪の美術商山中商会の手に移り昨年国立博物館に収められて国宝となったが、美人図の方は大阪某氏の所有となっていた。
 男は丹色の長袍に長沓をはき右斜下の方向をじっと見つめながら右手で静かに黒頭巾を脱ぎ取ろうとし、その後ろに侍童が主人の左袖を双手で支えながら主人と同方向を注視、また一方の絵には唐装の美女が侍女を従え女は頭巾を脱いで両手で着物を引張りながら朱唇を開いて男に呼びかけている。この古墳に葬られた人の在世中の情事を写したものと見られている。
このような純粋に世俗を描いた唐代の作品は珍しく、ベルリン博物館にあったものは第二次大戦で灰燼に帰し、このほかロンドン大英博物館に一点、来春から全米で行われる日本古美術展に出品される光明皇后奉納の正倉院御物約二百点の中に一点含まれているが、いずれも色がはげ落ち僅かに下絵の線が残っているにすぎず、こんなところから学界でもこの二枚の人物図は唐絵として世界一だと折り紙をつけ、円山応挙の絵十枚に匹敵すると評価している。

正倉院
樹下美人図
(鳥毛立女屏風第4扇)


洩れた?買取り会議
決定二日前に一美術商に買わる


去る6月文化財保護委ではこの「樹下美人図」を重要文化財として同館に保存するため買取評価員会を開き三百六十万円と評価したが、この決定の二日前、東京中央区京橋○の○○美術商○○堂(○○氏)は大阪に急行、所有主の某からこれを入手し五百五十万円以上でなければと譲らず遂に委員会側でも断念、物別れとなったものである。そこで○○氏は八方に買方を探す一方、アメリカにも三万ドルで売込む交渉を進めたといわれるが、結局美人図は去月初め熱海市メシヤ教団に買取られ、さきに創設された箱根美術館に陳列されることになった。


委員会のぶん乱が原因

文化財保護委員A談
わが国の重要美術品は同委員会の評価を受けると価格が数倍に急騰するところから同評価会議が秘密会議にも拘らず一委員が議事内容を事前に漏洩したのではないかと見られ公務機密漏えいの公務員法違反の疑いが出てきている。
美術工芸界の師弟関係はこの委員会の運営までも支配、これを利用して悪質な美術商らはなんの価値もないニセ物でも委員の中の権力者と結託して審査会議にとり上げさせ不当に価をつけていることもある。またこれをあばこうとしたり、その他美術界のイザコザや委員会の腐敗ぶりを外部に漏らしたものはことごとく仲間からボイコットを食い第一線を退かされており、今では美術工芸会はいく派にも分裂、お互いににらみ合いを続けている。「樹下美人図」は世界唯一の完全な唐絵だというので、こればかりは美術工芸界、委員らのぶん乱のため葬られてしまうことは忍びないと一部の委員がボイコットされることを覚悟で立上ったもので、調べればいくらでもイカサマが見つかるだろう。○○氏が会議直前に入手したのも本当に偶然だったかどうかは判らない。

美術商は見通しで買った

文化財保護委員B談
でたらめなことはしていない。重要文化財に緊急指定すれば外国に売ることを禁止できるが、○○氏は「外国には出さない」というし、「樹下美人図」も一個の商品だから所有者の自由を束縛したくなかった。美術商は玄人だから目も高く価がつきそうだと思えば非常な早業で手に入れる。○○氏の場合もそうだろう。美術商の見通しが当たったからといってとや角いわれては迷惑する。また重要美術品は日本では法隆寺の場合のように保護することは到底困難だから、それより外国に売って外貨を稼ぐと同時に日本美術の粋を多く外国に紹介できる方が良いではないか。

○○堂(○○氏は京都旅行中のため代理)談
いつ当店が入手したか忘れたし、すでにメシヤ教団に収めたからそんな前の事はどうでもいいではないか。



○○堂さんは今も堅実な御商売で、国の内外を問わず老舗としての信頼を保ち続けているお店ですが、この一件に関してはどうしても疑問が残ってしまいます。またこの二代目の○○氏は戦後海外、特にアメリカに東洋古美術の良品を紹介して富と信頼を得られた方ですので、重要文化財指定直前のこの作品なら、三万ドルでも十分独自ルートで売買可能だった事でしょう。


日本の美術品の海外流出がとまらなかった当時、明主様が購入する事によって数々の名品が流出を免れました。しかしこれは単に国益という事ではなく、この国の持つ真の使命や、東洋・日本美術の優越性、美術品の保護と開放、などの意味があったと思われます。
特にこの作品においては、光明皇后ゆかりの樹下美人図とのご因縁もあったのか〜もしれません?

この作品の御購入にあたっては新聞にもあるように、550万円という国も買い上げを断念する程の大金が必要とされましたが、明主様はそれを即決、言い値での購入を決められました。これで先ずは海外流出を防げますが、今度はこの大金の捻出が問題となります。
しかしここでも、あの渋井總斎先生が熱海のご自分の土地2万坪を売却して、その代金を明主様に届けられたそうです。(渋井先生が一布教師として異例の復帰をされた頃の事です。S27.7)

さてこの550万円という金額は高かった?それとも安かった?。。。少なくとも今では、いくらお金を積んでも買える作品ではなさそうですね!


審美眼には超〜乏しい小生ですが、次回美術館に行った時はもっとジックリ鑑賞してみようと思います。
では最後にお2人を並べてさし上げましょう。 仮想空間ではありますが。。。





(美人をクリックで拡大します)



     
               

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